【第11話】医薬品品質保証こぼれ話 ~旅のエピソードに寄せて~
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執筆者の連載をまとめた書籍を発刊「医薬品品質保証のこぼれ話」
“最後の詰め”を疎かにしない!
年が改まり立春を迎えても、医薬品不足は依然として解消の兆しが見えず、具体的な対策が示されない中、関係者からは“医薬品の安定確保”に関し聞きなれたメッセージが発せられるという状況にあります。この件に関しては、これまで、業界、行政、アカデミアなど様々な立場の専門家や有識者と言われるメンバーにより、繰り返し会合がもたれ議論し尽くされたと言ってよいでしょう。それにもかかわらず一向に状況の改善が見られないばかりか、インフルエンザなどの流行の下、発熱や咳などの風邪症状に対する薬剤は以前に増して枯渇するという事態を呈しており、医薬品不足の状況はむしろ悪化しているとの感さえあります。
これに対し、これまでどんな手が打たれてきたのか、尽くされてきた議論の成果が改善に向けて具体化されているのか、このあたりが見えないのが現状ではないでしょうか。政府の製薬企業に対する咳止めや解熱剤等の増産要請も、企業側の様々な事情もありさほどの効果が得られておらず、また、これが、もとより、根本的な解決をもたらす方策ではない、言わば、付け焼刃的な対策であることは誰の目にも明らかです。先進国を自認するこの国において、これほどの長いあいだ重大な医薬不足が続いている状況は“非常事態”であり、すでに“医療崩壊”が始まっていると言っても過言ではないでしょう。
この深刻な状況に対し、有識者による年単位の度重なる会合を経ても、誰が責任をもって対処するのかといったことさえ曖昧な中、実効性のある対策が講じられていないのが現状ではないでしょうか。本来であれば、議論の成果に基づき、問題解決に向けて個々の対策を着実に実行に移すべきところ、未だ的を射た対策が講じられていない、あるいは、対応が遅い、といった状況が見られます。有識者や専門家による議論は、医薬品不足解消に向けての道筋の最初のプロセスとして鍵になるものですが、このままでは、こういった議論が無駄になるだけではなく、医薬品不足解消への道筋自体が見えないことになります。
今の長期化する医薬品不足の原因は、単に、製薬企業の製造管理や品質保証の不備による医薬品回収などの問題ではなく、旧来の施策や制度への固執と、抜本的な改善・改革への躊躇いや対応の遅れにより、薬価算定や医薬品の製造販売承認事項の変更手続きなどに関して、求められる制度の変更が適時になされてこなかったことが、根底にある重大な要因と考えられます。これによる医療や薬事関連の“制度疲労”が製薬企業を疲弊・弱体化させ、医薬品の製造管理や品質管理に支障が生じ、この数年に頻発した、いわゆる“承認書と製造実態の齟齬”の問題を招いたと推察されます。これにより、多くの医薬品製造所が医薬品回収や業務停止(生産・出荷の禁止)に至り、現在の医薬品不足につながったと考えられています。ちなみに、関連する“制度疲労”としては、以下に述べる回収制度のほか、薬価制度、承認事項変更、製造販売制度の下での委託製造など多岐にわたります。
こういった状況はすでに有識者会議等でも指摘されて久しく、関係者の間ではすでに周知ですが、この部分への対策がどの程度進んでいるのか、現状はほとんど進んでいないと言っても過言ではないでしょう。医薬品不足の直接の原因の一つと考えられている多数の医薬品回収に関しては、そのあり方を改善すべく、2022年より国の補助金を基に研究が進められ2023年9月に研究結果が報告されました。しかし、その内容は今後の医薬品回収のあり方に改変をもたらし、医薬品不足の軽減に直接の寄与が期待できるものではなく、報告書における結論としては、“今後さらに詳しい調査研究が必要”との見解が示されるにとどまっています。(参照:https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/165754)
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