再生医療等製品の品質保証についての雑感【第70回】
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第70回:細胞培養加工施設における気流の収支と運用の考え方
~ 論文紹介 ~
はじめに
筆者は、縁あって、これまで数多くの無菌製造施設の設計や運用に関わっています。その中で、よく思うことの1つが、現状の細胞加工設備の機能仕様(機器に求められる性能)は過剰性能(オーバースペック)なのでは?という疑問です。グレードBの清浄度レベルを有する清浄度管理区域は、一般的には換気回数が20-30のクリーンルームが要求されます。(海外では一般的に20ですが、国内では30が求められる指針もあります。)ただこれは、基準の要求であり、管理上における必要条件(バリデーション設計要求)とは異なると考えます。理由として、一般的に設計されるグレードBは部屋の空調を単独で稼働しますが、我々が想定する細胞加工施設では内部で安全が運用されるからです。では、安全キャビネットを設置・運用するグレードB(清浄度管理区域)の必要条件を機能仕様として満たす換気回数は、実際はいかほどなのでしょうか?
昨年11月に、本学の社会人大学院生だった風呂光俊平氏(味の素株式会社)による、Approach of design for air mass balance in an aseptic processing area for cell-based productsという原著論文がRegenerative Therapy誌にアクセプトされました。内容としては、無菌操作区域(APA)内の、気流の管理が無菌操作環境の維持においてどのような影響を及ぼすのかについて、HEPA空調による空気の収支により構成される、各領域の微粒子濃度をシミュレーションの計算式より算出することで、微生物清浄度の予測を実施したものです。ここで検討したのは、細胞加工施設において一般的な、安全キャビネットやアイソレータシステム等のグレードA機器からの吸排気が、その設置環境である支援領域(SZ)の内部で実施される場合、グレードA機器内部の重要操作領域(CPZ)およびSZの粒子清浄度は、医薬品製造施設において一般的な、外部から直接グレードA機器への吸排気を行う場合と比較して、どのように異なるのかということです。今回は、その概要のみ、大雑把に(笑)ご紹介します。(詳細にご興味ある方は、是非論文をご一読ください。)
本論文では、以下の図1のような、Case 1からCase 3の事例を考慮しています。具体的には、赤線で囲った部分のように、Case 1が外部からの吸排気する構造です。対して、Case 2およびCase3はSZの内部で吸排気する構造で、両者の違いは、SZを発塵(体)の影響が大きい領域と小さい領域にざっくりと2つ(発塵体の発塵速度の影響を最大に受ける2(A)※と影響を受けない2(B))に分類し、それぞれから吸引することを想定しました。
極端な二分化条件ですので、安キャビのような腰付近の位置と同義です。
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(1: CPZ、2: SZ、3: 外部領域、4:グレードA機器の吸気ダクト、5: 同排気ダクト)
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