医薬品開発における非臨床試験から一言【第62回】

3H-標識体を利用した薬物動態試験

3H-標識体は合成法が比較的に簡単なため小分子だけではなく、核酸化合物などの中分子、さらには抗体を含むタンパク質などの高分子でも薬物動態試験に利用されています。しかし、3H-標識部位が分解(交換反応)されやすく、代謝を含めて注意しないと未変化体から3H(トリチウム)が外れ3H2O(トリチウム水)になり放射能が消失します。また、14Cの放射能消失半減期が5730年であるのに対して3Hの半減期は12.3年と短く、放出された放射能のβ線はエネルギーが14Cよりも極めて低いことにも注意が必要です。

3H-標識化合物の合成は幾つかの反応が知られています。被ばくするため薬物動態研究者が自分で合成するのは困難です。委託合成を行うネモト・サイエンス社の情報では、トリチウムガスを利用したトリチウム導入反応が示されています。最も簡便なのはH/T交換反応で、ターゲット化合物上のプロトン(T)を触媒存在下で直接3H(H)と交換します。前駆体を必要としないため最も簡便な方法ですが、反応が進行するかどうかは特定の官能基の有無によります。

このH/T交換反応の応用法として、ハロゲン/T交換反応も良く利用されます。芳香環上のハロゲン原子を触媒存在下で3Hと交換する反応です。標識したい位置にハロゲン原子を導入した前駆体を用いることでトリチウム原子の導入位置を指定できます。これらの交換反応はペプチド(高分子)のトリチウム標識化に応用できます。他にも幾つかの方法が例示されているので、目的化合物に最適な方法を探ってみて下さい。

3H-標識体が非臨床の薬物動態試験に使用される場合を考えてみます。低分子でラットを用いた吸収・分布・代謝・排泄試験のin vivo試験を示します。予め合成していた3H-標識体は、非標識体で希釈し投与液を調整します。最初に投与液の標識体濃度と放射活性の純度検定を行います。3H-標識体は、安定剤が共存しない投与液では慎重な取り扱いが必要です。比較的簡単に3H-標識が外れることがあり、放射化学的純度が落ちやすいように感じます。投与液の3H濃度は、希釈後分取して水性試料用のシンチレーターを加えれば液体シンチレーションカウンタ(液シン)で放射能の測定ができます。

N2ガスを吹き付けて蒸発乾固による放射能の減少を見る簡便な方法は、標識液の純度検定に利用可能です。また、HPLC等を用いた純度検定では放射能検出器が使用でき放射活性の強い14C-標識体では汎用されますが、3H-標識体では放射線が弱いため高濃度の投与液では測定が可能でも、未変化体と代謝物の分離測定では苦労します。そこで、HPLCで分離後に溶出液のピーク部分を分取しシンチレーターを加えて液シンで放射能を測定すると、高感度で放射能濃度を定量できます。

 

 

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