医薬品開発における非臨床試験から一言【第78回】
非臨床試験の総括・大発見の応用
創薬とは、ビジネスを視野に新規性のある新薬を常に創り出す事業と考えます。標準的な研究をベースに時として大発見があり、非臨床試験と臨床試験で結果の完璧な確認が必要となります。ルーチン的な研究業務をベースに発見を見逃さない姿勢を目指し、新薬に仕上げる過程が創薬になります。
私にとって最初の発見は、薬学部の生化学研究室時代になります。甲状腺のホルモン分泌機構をテーマに、生化学と形態学の研究を1つにまとめていました。ラットに甲状腺刺激ホルモン(TSH、thyroid stimulating hormone)を前投与して甲状腺を摘出し、走査型電子顕微鏡(SEM、scanning electron microscopy)を用いて濾胞細胞の変化を観察していました。甲状腺は沢山の風船のようなバルーン構造(濾胞)より構成され、濾胞の内側にthyroglobulin(TG、分子量約66万の巨大な糖蛋白で甲状腺ホルモンの合成・分泌を行う原料)の溶液を蓄えています。SEMを用いて、甲状腺の濾胞腔を三次元イメージングの視点で覗き込んだ画像はインパクトがありました。
1970年代は、SEMによる観察により試料の電子線焼けが強くて、同じポイントを長時間に渡って観察するのは難しく、真空度が不安定なため、解像度が変動しました。ベストな観察試料が出来上がり、湿度が低く電子顕微鏡の真空度が上がり易く、電子線ビームの収束が良くないと、高感度の観察結果が出ません。そんな繰り返しの春先に、全てがそろったラッキーな1日が訪れ、一気に大発見の観察データが得られました。
偶然を手繰り寄せた一瞬です。この成功体験が、私の一生を決めたのかもしれません。もちろん、繰り返しの動物実験と生化学的な研究から、試料の作成条件は非常に安定しており、SEMの真空度が良く、電子線ビームが適度にシャープな条件は、機器のメンテナンスと自然環境に依存します。研究のなだらかな進歩の先に、大きな成果が現れます(運が良ければ)。
甲状腺の濾胞腔は、写真1(正常状態)に示したように、apical cell surfaceが観察できます。TSHで強く刺激して高倍率で観察した写真2は、濾胞腔に顆粒状突起が生じ、endocytosisがダイナミックに起きる形態を捉えることができました。この状態を推定すると、突起が濾胞腔に蓄えられたTGをすくい取り、細胞内で糖蛋白が代謝分解され、甲状腺ホルモンが出来上がって、血中に分泌されます。つまり、甲状腺を刺激したときに甲状腺ホルモンが分泌される最初の変化です。そして、甲状腺を刺激や抑制する薬剤の作用が観察できる、直接的な手段を提供できました。
先端に開口部(矢印)が出現(TGの取り込み)
製薬会社の薬物動態研究室に就職して、そこで担当したラセミ体低分子薬物の研究を示します。薬物治療では、血液や臓器中の薬物濃度が薬理作用の指標になり、肝臓を標的とする経口剤では、吸収後に門脈系を経て肝初回通過時の肝臓中薬物濃度に注目します。この肝臓移行を支配している薬物動態を解明することが重要です。担当したピラゾロトリアジン誘導体である、BOF-4272の研究では、経口投与により標的臓器の肝臓への薬物集積が大きく、ラットの体内動態特性と肝浮遊細胞の研究を進めました。
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