ドマさんの徒然なるままに【第90話】 正常性バイアス・後編

第90話:正常性バイアス・後編
序章
前第89話「正常性バイアス・前編」の「第9章:査察対応での具体例」での予告どおり、読者が一番興味を示す部分なので、この周辺についてChat GPT先生のご意見を踏まえて本話にその内容とともに、筆者のコメントをつけて紹介する。
水色が生成AIの回答(整理のために一部修正、用語を統一しているが、内容的には基本そのまま記している)、黒字(一部赤字)が筆者のコメントである。
なお、本話においては、品質に関わるGood Practices全体、具体的にはGMP省令・GQP省令・GCTP省令・GDPガイドライン・治験薬GMP基準の総称として「GMP」と記しているので、その点をご容赦願います。特定のGMPや本来のGMPに限定して言及している場合には、都度具体的に表記を施しているので、その点をご了承願います。
『規制当局(PMDA/FDA 等)査察官視点で見た「正常性バイアスが背景にある典型的な指摘例」です。単なる事象ではなく、「なぜそれが問題視されるのか」という思考プロセスも併せて整理します。』と答えてきた。
そこで、念のために監査員も加えて「正常性バイアスの具体例を査察官・監査員の視点で整理してほしい」としてChatGPTに追加質問してみた。
あくまで、AIによる“見立て”なので、どれだけ信憑性があるかどうかの判断はしかねるが、次章以降に両質問の回答(しかも質問表現を微妙に変えて複数回実施)に対して、筆者の経験的コメントを添えて説明する。
AI回答内にある【現場の思考】は、査察・監査を受けている側の心理状態(≒背景にある正常性バイアス)であり、査察官や監査員にはどう映っているか、またそれをどう克服するかという視点でお読みいただければ宜しいかと思う。各章は、少しでも読みやすいようにと思い、GMP省令の条項順に合せて整理している。
・ 定例報告はしている
・ 前年と大きな差はない(=管理状態が良好)
【査察官・監査員の視点】
・ レビューが“報告会”になっていないか?
・ 数字の変化に対する議論記録があるか?
・ 経営層がリスクを理解している証跡は?
【典型的な問い】
⇒査察官・監査員は“変化への感度”を見ています。
【現場の思考】
・ 説明すれば納得される(問題として捉えていない)
【査察官・監査員の視点】
⇒査察官は言葉ではなく証拠を見る
⇒組織的な正常性バイアスの兆候
第4章:SOPにおける正常性バイアス
① 実態との乖離
【現場の思考】
・ 実際はこちらの方が効率的
・ 事故は起きていない
【査察官・監査員の視点】
・ 手順と実態の整合性
・ 暗黙ルールの存在
【典型的な問い】
⇒SOP乖離は内部統制不備と見なされます。
【現場の思考】
・ アクションレベルではない
・ 清掃すれば戻る
【査察官・監査員の視点】
・ トレンド評価は?
・ 管理状態にあると統計的に言えるか?
【典型的な問い】
⇒“単発”と“傾向”は別問題です。
第5章:設備・機器における正常性バイアス
① 応急処置の繰り返し
【現場の思考】
・ まだ使える
・ 予算の都合
【査察官・監査員の視点】
・ 同一部位の修理履歴
・ リスク評価の有無
・ 恒久対策の検討記録
【典型的な問い】
⇒“動いている”と“適切に管理されている”は別概念です。
【現場の思考】
・ 結果的に問題なかった
・ 止めるほどではない
【査察官・監査員の視点】
・ GMPは結果ではなくプロセス保証
・ 記録なき対応=未管理と同義
【典型的な問い】
【現場の思考】
・ 期限内だから有効
【査察官・監査員の視点】
・ GMPは最低基準の遵守では不十分
・ リスクベース管理が期待される
【典型的な問い】
⇒予防保全の概念が見られない
第6章:試験検査における正常性バイアス
① OOS/OOTの過度な分析限定
【現場の思考】
・ 測定誤差の可能性が高い
・ 再試験で合格
【査察官・監査員の視点】
・ 初回結果の扱いは適切か?
・ 仮説に引っ張られていないか?
・ 製造側要因を十分検討したか?
【典型的な問い】
【現場の思考】
・ OOSじゃないから問題ない
・ 分析誤差の範囲
【査察官・監査員の見方】
【現場の思考】
・ やり直せば収まる
・ たまたま外れた
【査察官・監査員の見方】
・ 初回結果の妥当性評価なしに再試験が行われている
【典型的な問い】
第7章:変更管理における正常性バイアス
① 変更管理の軽視
【現場の思考】
・ 一つ一つは小さい変更だから影響は限定的
・ 過去も問題なかった
【査察官・監査員の視点】
・ リスク評価は定量的か?
・ 累積変更の影響を評価しているか?
【典型的な問い】
⇒査察官・監査員は“累積リスク”を見ます。
【現場の思考】
・ 小変更だから
・ 後でまとめて
【査察官・監査員の見方】
・ 品質に影響し得る変更が、非公式に実施されている
【典型的な問い】
第8章:逸脱管理における正常性バイアス
① 逸脱の“軽微化”の常態化
【現場の思考】
・ このレベルはいつもある
・ 品質に影響はない
【査察官・監査員の視点】
・ 同種逸脱が繰り返されていないか?
・ CAPAが形骸化していないか?
・ トレンド分析は実施されているか?
【典型的な問い】
⇒査察官・監査員は「頻度=統制の弱体化」と見ます。
・ 前回問題なかった
・ 承認されているから適正
【査察官・監査員の視点】
・ 正式の逸脱管理の手間を惜しんでいないか?
・ “逸脱前提の運用”としていないか?
その観点から、計画的逸脱はあくまで止むを得ない状況下でのみの対策であり、やむなく「今回のみ認める」ということで、それを踏まえ「一時的に変更手順で実施する」ということを意味します。もし頻度が多いようであれば、しかもその程度が酷いのであれば、QAとして承認すること自体が信じられません。“安易な逸脱逃れ+それに伴う変更”とみなされ、貴社の解釈と運用に疑問を抱かれます。
確かに、SOPに規定している会社さんがあるのは事実ですが、たとえ、それが治験薬製造時であったとしても、現実にはあまり実施しないようにしたほうが賢明でしょう*2。
第9章:自己点検における正常性バイアス
① 自己点検の馴れ合い化
【現場の思考】
・ 毎年問題なし(=健全)
・ 指摘は軽微のみ
【査察官・監査員の視点】
・ 監査員は独立しているか?
・ 指摘が少なすぎないか?
・ 深掘り質問しているか?
【典型的な問い】
⇒査察官・監査員は“自己点検の質”を評価します。
第10章:教育訓練における正常性バイアス
① 教育訓練のマンネリ化
【現場の思考】
・ 毎年同じ内容で実施
・ 受講率100%
・ 実施した=効果がある
【査察官・監査員の視点】
・ 理解度評価は?
・ 実効性の検証は?
・ 同じ逸脱が再発していないか?
【典型的な問い】
第11章:文書・記録の管理における正常性バイアス
① データインテグリティの軽視・慣習化
【現場の思考】
・ 忙しいから後書き(現場では普通にやってる)
・ 記録の同時性
・ 修正頻度
・ 監査証跡レビュー
【典型的な問い】
⇒ここは重大指摘につながりやすい領域です。
・ 問題が“ない”のか
・ 問題を“見ていない”のか
以下が危険サイン:
・ 再発率が高い
・ 指摘が毎年同じ
・ 記録が説明的すぎる(防御的)
・ 根本原因が常に「ヒューマンエラー」
第13章:査察官・監査員の本質的評価軸
① 彼らが見ているのは:
2. データで判断しているか?
3. 再発を容認していないか?
4. “慣れ”を疑う文化があるか?
5. 組織がリスクに敏感か?
第14章:査察・監査を受ける側の対策
・ 前回は指摘されませんでした
・ この程度は業界では普通です
・ 品質への影響はありません(根拠なし)
・ トレンド分析の定期化
⇒形式的な製品品質照査やマネジメントレビューでは無理です。
・ 「なぜ問題と感じなかったのか?」の自己検証
⇒自己点検で強化できます。
・ リスクベース思考の教育
⇒漠然とした形式的な教育訓練を見直しては?
終章
本話の「第2章:査察官・監査員の視点で見る正常性バイアス(総括)」で述べたように、査察・監査を受ける側の多くは、「今まで問題が起きていない=今回も問題ない」という正常性バイアスが無意識に働きます。一方で、査察官や監査員は「問題が起きていない理由」ではなく、「問題が起きる兆候」を意識します。この発想こそが、本来のリスクマネジメントだと思っているのですが、どうも多くの製造所では、「品質リスクマネジメント(QRM)=FMEAか何かのフォーマルな数値化による分析」*4と勝手に解釈し、「うちはちゃんとQRMしている」と言い張ります。医薬品、ヒトが関与している以上、そこには関知しにくい、まして数値化できない、ヒトの心理リスクも働くんじゃないでしょうか。ICH Q9(R1)が求める真の品質リスクマネジメントをもう一度深読みして、GMP関係者だけじゃなく、貴社のお偉いさんも含めて、ヒトの生命に携わる者として正常性バイアスに翻弄されないようにして貰いたいと願います。ましてや同調圧力*3をかけて黙らせようとするようなことは避けて貰いたいと願います。
では、また。See you next time on the WEB.
【徒然後記】
桜開花予想
桜(ソメイヨシノ)の開花予想、毎年3月に入るとニュース等を賑わせる。東京であれば、開花予想日に近づくと靖国神社の標本木での取材が毎日のように放映される。筆者、正直言うと興味がない。当然お花見にも行かない。以前は、ゴミ集積場近くに桜の木が2本あり、結構綺麗に咲いていたので、ゴミ捨てに行く際の“ちょい見”で満足していた。ただ、10年くらい前に老齢化し倒木の恐れがあるとして伐採されてしまった。お陰で桜吹雪による屋根なし車庫の掃除の手間は省けるようにはなったものの、目の保養とも言える鑑賞も無くなった。
話を戻すが、桜開花予想の報道があるたびに、「日本って、なんて平和で幸せな国なんだろう」と思う。世界には、今日を生き延びることに必死な国が沢山ある。桜がいつ開花するか、そんなことで騒ぐことができる日本って、とっても平和で幸せな国に違いない。平和や幸せって、こんなほのぼのとした日々を過ごすことなんじゃないかと思ったりする。
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*1:【参考】計画的逸脱に関するGMP Platformトピックス
2021年5月19日付「お宅では“Planned" Deviations”は規定していますか?」
2023年10月10日付「EU-GMP/Planned" Deviations(計画的逸脱)はありますか?」
《注》これらトピックスは同一内容です。ニュース元のECA/GMP Newsが日を置いて再掲載したためです。
*2:計画的逸脱に関連しては、第85話「お宅はどうですか?/Part 2(治験薬編)」内の「治験薬GMPにおける突発的逸脱時の緊急対応が曖昧な会社さん」として、“緊急時変更(Emergency Change)”の形で説明している。
*3:同調圧力とは、集団の中で少数意見を持つ個人に対して、暗黙のうちに多数派の意見や行動に合わせるよう心理的・社会的に働きかける圧力のことです。
GMP世界の中で言えば、「これでいいのかなー!?」という想いを周囲に言えない雰囲気、まして内部告発できない状況に追い込むような、心理的安全性を脅かす形として発現するように思います。
*4:ICH Q9(R1) 令和 5年(2023年)8月31日付 薬生薬審発0831第1号、薬生監麻発0831第2号「品質リスクマネジメントに関するガイドラインの改正について」
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