失敗の本質はどこにある?【第1回】
守らなければならないと分かっていながらルールから逸脱し、組織全体や社会に影響を与える事故や不祥事が絶えません。
筆者は、組織文化の劣化が招いた原子力事故の反省と教訓を社員に啓発し、安全文化構築に取り組んだ経験を『失敗しない「人と組織」』(中央経済社、2025年)にまとめました。
医療・製薬分野に限らず、データ改ざんなどの不正への本質的対策を考えるため、本書の一部を加筆し、3回に分けてご紹介します。
1.組織文化の重要性
■組織文化がなぜ重要なのか
科学や技術、製造プロセスを扱う皆さんは、「組織文化」をふだん意識することは少ないと思います。
「組織」とは、目標を共有し、達成のために協働する人びとの集まりで、「組織文化」とは、組織内に共通する意識・行動です。「くせ」や「らしさ」といった無意識の習慣ともいえる、共通の思考や行動パターンです。
経営学者のビーター・ドラッカーが「企業文化は戦略にまさる」と言うとおり、組織の成功・失敗の源泉になります。本連載タイトル「失敗の本質はどこにある?」の回答として「失敗も成功も、その本質は組織文化にある」と言えることを本稿でお伝えしていきます。
『エクセレントカンパニー』などの研究では、高業績企業の組織文化には、強く共有される「価値観」を判断基準にして各自が「自律的」に行動し、「人間を尊重」するなどの特徴が見られます。
対照的に、劣化した組織文化の下では、事故や不祥事の根本原因となる歪んだ価値観や行動習慣が人々に浸透し、構造的問題の温床になります。
■劣化した組織文化が招く組織事故・不祥事
スペースシャトル・コロンビア号の事故を例に、考えます。
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