最新コスメ科学 解体新書【第9回】

2024/09/06 化粧品

化粧品その他

前回に引き続きAIとコスメ。

AIとコスメ②

 前回は、化粧品業界でいま、まさに展開されているAI関連のテクノロジーを紹介しました。長年蓄積されてきた皮膚科学に関する膨大なデータと機械学習をはじめとする情報科学の手法が組み合わさることで、皮膚が変形する過程を内部構造まで超高精細にコンピューター上に再現する「4DデジタルスキンTM」、皮脂の中のRNAを網羅的に分析する「RNA Monitoring(RNAモニタリング)」、顔の表情をつくる際のごくわずかな肌の動きの遅れをエイジングサインとして解析するコンピューターシミュレーションが開発され、新しい化粧品やカウンセリングに利用されているのでした。

 さて、今回は、もうちょっと基礎的な研究の世界でなにが行われているのか、アカデミアでの取り組みについて紹介します。

 まずは化粧品業界の花形、スキンケアのイノベーションにつながるテクノロジーを紹介します。皮膚は人体最大の臓器と呼ばれており、ヒトが生きていくためにさまざまな役割を果たしていることが知られていますが、中でも最も重要なのが水分の蒸散を防ぐバリア機能です。われわれの身体の主成分は水で、約70%を占めると言われていますが、これが多量に失われると生命の危機にもつながると言われています1)。皮膚、特に最外層に存在する角層は体内からの水分の蒸散を防いでくれる柔らかく、しなやかな防波堤なのです。

 スキンケア化粧品の最も重要な役割は、角層に潤いを与えて皮膚がバリア機能を保持するサポートをすることなのですが、このバリア機能をきちんと評価するのは簡単なことではありませんでした。なにしろ相手は生きた皮膚、傷をつけたり強い負荷を与えることなく、防波堤としてのパワーを数値化する必要がありました。そこで開発されたのが、経表皮水分蒸散量、略称TEWLの測定器でした2)。この装置は、細い円筒の内部に湿度センサーが複数装着されており、皮膚からの蒸散するごくわずかな水分量のグラジエントからバリア機能の程度を定量化することができるのです。この装置は、世界中の化粧品メーカーだけでなく、デパートなどの店頭でも利用されています。

 この、スキンケア化粧品を開発する上で必須のTEWLの測定システムが、AIのパワーを利用して飛躍的な進歩を遂げようとしているのです。理化学研究所のグループは、顕微鏡で撮影した皮膚画像から構造的な特徴とTEWLの間に有意な相関を見出し、これらの特徴を入力として、TEWLを予測する機械学習モデルを学習させることに成功したのです3)。この技術によって、特別な装置を使うことなく、スマートフォンで撮影した画像からTEWLを推定することが可能になれば、日々のバリア機能の変化をモニターし、ひとりひとりにとってその瞬間に最適なスキンケアを提案することがかのうになることが期待されるのです。

 

 

2ページ中 1ページ目

執筆者について

野々村 美宗

経歴

山形大学 学術研究院化学・バイオ工学分野 教授 博士(工学)
花王株式会社において化粧料および身体洗浄料の商品開発に従事した後、山形大学に赴任。2017年より現職。専門は物理化学、界面化学、化粧品学。これまでに生体表面における界面現象のダイナミクス、界面活性剤を用いたエマルション・可溶化物・泡製剤の開発、化粧料・食品の触覚/食感センシングについて研究してきた。著書に『教授にきいた・・・ コスメの科学』、『化粧品 医薬部外品 医薬品のための界面化学』(ともにフレグランスジャーナル社) などがある。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

連載記事

13件中 1-3件目

コメント

この記事へのコメントはありません。

セミナー

2025年2月26日 (水) ~ 2月28日 (金)

GMP Auditor育成プログラム第19期

2025年6月16日(月)10:30-16:30~2025年6月17日(火)10:30-16:30

門外漢のためのGMP超入門

CM Plusサービス一覧

※CM Plusホームページにリンクされます

関連サイト

株式会社シーエムプラス

本サイトの運営会社。ライフサイエンス産業を始めとする幅広い産業分野で、エンジニアリング、コンサルティング、教育支援、マッチングサービスを提供しています。

ライフサイエンス企業情報プラットフォーム

ライフサイエンス業界におけるサプライチェーン各社が提供する製品・サービス情報を閲覧、発信できる専門ポータルサイトです。最新情報を様々な方法で入手頂けます。

海外工場建設情報プラットフォーム

海外の工場建設をお考えですか?ベトナム、タイ、インドネシアなどアジアを中心とした各国の建設物価、賃金情報、工業団地、建設許可手続きなど、役立つ情報がここにあります。

※関連サイトにリンクされます