ある老兵の視点【6】

医薬品のニトロソアミン不純物の管理と最新動向


1. 規制の背景とパラダイムシフト

一般のニュース等で大きく扱われることは少ないものの、製薬業界においてニトロソアミン不純物は重大な関心事となっています。2018年、高血圧治療薬(バルサルタン)からN-ニトロソジメチルアミンが検出されたことを契機に、欧米の規制当局はニトロソアミン類を「最も重大な品質リスク」として厳格に規制し始めました。現在、この流れに日本も完全に追随しています。

  • 予防的措置の徹底: 実際の薬害は確認されていないものの、変異原性物質には「安全な閾値がない」とされるため、当局は「実害が起きる可能性の芽を事前に摘む」という予防原則に基づき、厳格な限度値を設定しています。
  • 規制の軌道修正(2024〜現在): 当初当局は「リスクゼロ」を追求し一律に厳しい基準を設けましたが、結果的に「基準をクリアできず薬が市場から消える(欠品する)」という不利益が生じました。そのため近年は、「医薬品の安定供給」とのバランスを取るべく、暫定管理値の容認や後述するCPCAの導入など、より科学的かつ柔軟な方向へパラダイムシフトが起きています。

2. 規制当局が求める「3ステップ」の管理プロセス

日米欧の規制当局は、製薬企業に対して以下の共通ステップによる網羅的なリスク管理を求めています。

① リスクアセスメント: 原薬・製剤の製造、包装、保管等の全工程で混入・生成リスクの有無を評価する。
② 検証試験: リスクが否定できない場合、高感度な分析手法を用いて実際のバッチを定量評価する。
③ リスク低減: 許容摂取量を超える場合、製造工程、原料、処方の見直し等の対策を講じる。
 

3. ニトロソアミン混入・生成の主な4ルート

ニトロソアミンは「アミン類(二級・三級等)」と「ニトロソ化剤(亜硝酸塩など)」が特定の条件下で化学反応することで生成します。

  • 原薬製造プロセス: 合成時に意図的に使用する亜硝酸塩と、DMF(ジメチルホルムアミド)などのアミン系溶媒や試薬の分解物が反応し、精製工程で除去しきれずに残留するケース。
  • 製剤化プロセス(NDSRIs※): 原薬自身のアミン構造と、添加剤(セルロース等)に微量に含まれる製造由来の亜硝酸塩が、錠剤内での熱や湿気により徐々に反応するケース。現在、業界で最も大きな課題とされています。 
    (※NDSRIs: Nitrosamine Drug Substance-Related Impurities / 原薬関連ニトロソアミン不純物)。
  • 回収溶媒による交差汚染: 外部業者が他ラインで使用した溶媒を同じ設備で処理し、微量のニトロソアミンが別の原薬に交差汚染するケース。
  • 包装材料からの移行: PTP包装(アルミ箔)の印刷定着に使われる「ニトロセルロース」がヒートシール時の熱で分解してガス化し、錠剤に移行して原薬のアミンと反応するケース。

 

 

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