リアルワールドデータ(RWD)がもたらすもの【第1回】

【第1回】リアルワールドデータ(RWD)を利活用するには

1.    臨床試験の限界
病気になったとき、病院で診察を受け、薬をもらうことがあるだろう。この薬には症状をしずめる効果があると、疑わずに飲む人がほとんどだろう。しかし、薬は必ず劇的な効果をもたらすわけではないと思っている人も多いのではないだろうか。あまり効かなかったな、痛みがおさまらない、熱が下がらない・・そういう経験は誰にもあるのではないだろうか。あるいは、そう言う人の話を聞いたことがあるのではないだろうか。

病院で出される薬は、臨床試験によってその効果が証明されたことに基づいて、患者さんに提供されている。しかし、この証明は、ごく限られた患者さんにおいて観察された事象を根拠としている。薬の効果は個人差があるので、なるべく似た背景を持つ患者さんを選んで臨床試験をおこなっているのである。臨床試験とは、たとえば血圧を下げる薬の場合は、血圧が高い患者さんに一定期間の協力をお願いして、その薬を飲んでもらって、長期的に血圧が安定してくるかどうかを観察する。その際に、高血圧症以外の持病のある人や、高齢の人には、そもそもこの依頼をしないようにしているのである。たとえば、腎疾患のある人はもともと腎機能に関わる検査では基準範囲外の数値を示しているので、臨床試験中にそれらの項目に異常値があることが、その人の持病のせいなのか試験中の薬の作用によるのか見分けられなくなる。また、高齢者は一般的に代謝機能が低下しているので、薬を飲んだあとに副反応が出る可能性が高く、試験中の薬の評価が適切にできない可能性がある。

しかしどうだろう。高血圧症の人は、糖尿病や腎疾患を持病として持っていることは少なくないし、高齢の患者さんもめずらしくないだろう。すなわち、病院でくれる薬は、実際の診療に訪れている患者さんの大多数に対しては、試験はおこなわれていないのである。臨床試験とは、当該試験薬の効果の対象となる症状のみを呈する患者さん、すなわち限定された少数の患者さんへの効果しか確認せずに、実際の診療に使われているのである。

臨床試験において得られるデータは、協力してくれる患者さんに定期的な来院をお願いしたり、決まった項目の検査を来院のたびにおこなったり、試験期間中は決まった時間に必ず薬を飲んでもらうなど、厳しく管理された状況の中で情報を得ている。このことは臨床試験を科学的におこなうためには避けられない。効果を評価する際に、評価指標に影響する要素はなるべく均一にしておかなければ、評価に支障が生じる可能性がある。一方、実際の診療においては、治療中の他の病気がある人も高齢者も来院して治療を受ける。実際の診療において、臨床試験中には対象に含めなかったタイプの患者さんたちに対する薬の効果を見ていくことで、その薬の本当の効果が長期的に確認されていくことになるのである。

また、臨床試験に参加する患者さんの数はごく少数である。例えば関節リウマチは、人口のおよそ0.4~0.5%とされており1)、すなわち日本における患者数はおよそ60万人であるが、通常臨床試験に参加する患者さんの人数は数百人である。また、臨床試験の期間は通常1年程度であるため、実際の医療において長期にわたって薬を使い続けた際の影響は、臨床試験中には確認できない。実際の医療においては、臨床試験よりも多くの患者さんに、長期間にわたってその薬を使っていくことになる。

2.    リアルワールドデータ(RWD)とは
リアルワールドデータ(以降RWD)とは、「実環境データ」と訳される。現実世界のさまざまな情報のことを指している。特に、医療において日常診療から得られる情報はRWDと呼ばれることが多い。これを分析することが、医療の実際の姿を把握する上で有用と考えられている。臨床試験においては、実際の診療よりもはるかに管理された、いわば特別な環境下でデータを得ている。このため、臨床試験で得られた情報はRWDとはいわない。RWDとは、実際の日常の診療において得られる情報を意味している。臨床試験よりも、実際の医療の実情を反映しているのである。

 

 

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