行政と現場で紡ぐ品質文化 ~「医薬品製造業者等の品質保証体制強化」とその先へ~【第4回】
■対談者:
• 橋本 明日香(奈良県庁 薬務行政担当)
• 田中 良一(株式会社シーエムプラス シニアコンサルタント / 元厚労省GMP指導官・元京都府庁)
■実施日時:2026年3月19日(木)
■実施場所:株式会社シーエムプラス(神奈川県横浜市)
■第4回:PIC/S加盟による対応~PQR、安定性モニタリング、DI~
田中: 現場のソフト面のお話に関連して、製品品質照査(PQR)や安定性モニタリングについて伺います。
制度として定着してきてはいますが、企業の方々は現在、どのような温度感で取り組まれていますか?
橋本様: だいぶ通常業務として定着してきてはいます。
ただ、「PQRをやって良かった」「自分たちの製品の傾向が掴めた」と実感を持って取り組めているかというと、まだまだ「やらないといけないからやっている」「(期限までに)終わらせないといけない」という感覚の現場が多いですね。
田中: どっちかというと、「過去のものをただ見て、今まで通り作れているからOK」という、現状維持の確認作業になってしまっているわけですね。
PQR本来の目的は、傾向を分析して「このままいくと将来エラーが起きるかもしれない」と予測し、予防措置をとることかと思います。
橋本様: おっしゃる通りです。PQRで傾向をしっかり拾えていれば防げたはずの逸脱が、大きなトラブルになってから発覚してしまうケースがあります。
現場の方には、「もしここで逸脱が起きたら、製造がストップしてこれくらいのお金(損失)がかかりますよ」「最悪の場合、回収になってしまいますよ」と、費用対効果やリスクと結びつけてお話しすることがあります。
田中: それは非常に効果的ですね。
PQRやマネジメントレビューは、ある意味で「将来の負の資産を増やさないための投資」です。
経営層やトップの方々にその物語(ストーリー)をうまく伝えられれば、PQRやマネジメントレビューを見る目が変わり、積極的に取り組んでいただけるようになると思います。
橋本様: そうですね。マネジメントレビューの際に、行政が「こういう活動をしているから御社は製剤を供給し続けることが出来るんですよ」と、現場の頑張りをトップに客観的に伝えることも、トップの理解を深める後押しになると感じています。
田中: 次に、データインテグリティ(DI)について伺います。
これからの時代、DI対応は必須ですが、中小企業がいきなり高価な電子システムを導入するのはハードルが高いですよね。
奈良県の現場でも、まだまだ紙(アナログ)での記録文化は根強いのではないでしょうか?
橋本様: はい、まだまだ紙の記録での管理が多いのが実態です。
ただ、紙ベースだとどうしても「甘え」が出やすいんですよね。
例えば、システムなら入力した時間の記録が厳密に残りますが、紙だと「後からまとめて書いてしまおう」といったことが物理的にできてしまいます。
以前執筆した記事の中で、「記録の清書」について触れました。
現場の担当者が書いた記録を、責任者が後から「きれいな字」で書き直して元の記録を捨ててしまうという事例です。
この事例は悪意や隠蔽ではなく、むしろ「几帳面さ」や「品質を大切に想う気持ち」から来ているという視点なのです。
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