【第15回】ライフサイエンス業界における効果的なサイバーセキュリティ対策とは
サイバー攻撃のトレンドその対策最前線をシリーズで紹介
第六回『製薬とバイオテクノロジーのスマートファクトリーをサイバー脅威から守る方法』
現代医療の恩恵は、世界中に張り巡らされた精密な医薬品供給網によって支えられています。毎日、毎分、休むことなく稼働し続ける製薬会社やバイオテクノロジー企業の製造ラインですが、その製造ラインにより、何百、何億人もの人々の生命を文字通り維持するため日々稼働を続けております。進行がんの増殖を抑える分子標的薬、糖尿病患者の日常生活を支えるインシュリン、かつての不治の病を克服した抗生物質、そして突如として世界を襲うパンデミックの猛威を食い止めるワクチンなど、さらには、心血管疾患の治療薬や、臓器移植後の拒絶反応を制御して新たな命を繋ぐ免疫抑制剤まで、そのラインナップは多岐にわたります。これらの製品は単なる「商品」ではない。それは、患者にとっての明日そのものであり、社会が安定して機能するための不可欠な基盤(インフラ)と言ってもいいのではないでしょうか。
しかし、この極めて重要な産業は今、かつてないほど巧妙かつ破壊的な脅威に直面しており、それは、目に見える不純物や微生物による汚染ではなく、デジタル空間から忍び寄る「サイバー攻撃」という名の攻撃です。医薬品製造業界は、自動車や家電、一般消費財といった他のどの製造業とも一線を画す、極めて特殊な制約の下で運営されており、その核心にあるのは「患者の安全」に対する絶対的な責任があります。製薬現場においては、すべての工程が「文書化」され、原材料から最終製品に至るまでの「トレーサビリティ」が完全に確保されていなければなりません。GMP(医薬品の製造管理及び品質管理の基準)*1に代表される厳格な規制は、単なるルールではなく、製品の品質を担保するための生命線でもあります。
この分野において、「妥協」や「ミス」の代償はあまりにも大きいことになります。たった一つのコンプライアンス違反、あるいは製造環境におけるわずかな汚染管理の不備が発見されただけで、それは即座に規制当局による厳しい是正措置、全製品の回収(リコール)、そして工場の操業停止という最悪の事態を引き起こします。この連鎖反応は、企業の財務状況を悪化させるだけでなく、市場における「医薬品不足」を招き、特定の薬がなければ生きられない数千、数万の患者にとって、供給の停止は死活問題に直結します。このように、製薬業界における製造トラブルは、企業の枠を超えた人道的な危機へと発展するリスクを常に含んでおります。歴史的に、製薬業界は物理的な汚染対策にその持てる資源の多くを投じてきました。エアロック、クリーンルーム、高度な滅菌プロセス、そして厳密に検証されたバリデーションなどです。これらは物理的な不純物から製品を守るための「盾」でありましたが、しかし、工場のDX(デジタルトランスフォーメーション)化が進み、OT(制御技術)とIT(情報技術)が融合する中で、この盾を潜り抜ける攻撃手法が台頭してきました。
コメント
/
/
/
コメント