ドマさんの徒然なるままに【第93話】 GMPリテラシー・前編

第93話:GMPリテラシー・前編
序章
リテラシー(literacy)なる言葉、最近よく耳にするかと思います。元々は「識字力(文字を読み書きし理解できること)」と訳されていたと思うが、SNSが普及しAIが日常的に使われる現在では「与えられた材料から必要な情報を引き出し適切に理解・解釈・分析し、改めて記述・表現するといった応用力」の意味に使われるようになったようで、むしろ「読解記述力」に近い意味で用いられていると言える。
たまたまであるが、第88話「GMPハルシネーション」、第89話「正常性バイアス・前編」、そして第90話「正常性バイアス・後編」と、三回連続でAI先生(主にはチャッピーことChat GPT)とチャットしながら、筆者としても頭を整理して来ました。すると面白いものですねー。AI先生の方から「こんなのもありますよー」とヒントを出してくれたのですが、それが「GMPリテラシー」とも言える内容でした。
そんなこともあり、読者の皆さんもSNS(少なくともインターネット)やAI先生を使うであろう(既に使っている)と推測されることから、「GMP省令を筆頭とするGMP関係の文書やネット情報、さらにご使用のAI先生からの回答について注意しないと誤解を招いたり、ミスリードしたりしますよ!」という注意喚起のつもりで、『勝手にGMP論』シリーズ*1の第18弾として本話を書いてみました。
ということで、次章以降にAI先生の情報に加えて筆者のコメントを添え、整理して説明する。水色が生成AIの回答(整理のために一部修正や割愛しているものもあるが、基本そのまま記している)、黒字(一部赤字)が筆者のコメントである。
なお、本話においては、品質に関わるGood Practices全体、具体的にはGMP省令・GQP省令・GCTP省令・GDPガイドライン・治験薬GMP基準の総称として「GMP」と記しているので、その点をご容赦願います。特定のGMPや本来のGMPに限定して言及している場合には、都度具体的に表記を施しているので、その点をご了承願います。
第1章:GMPリテラシーとは?
最初に読者の皆さんへの質問です。
「ご自身のGMPリテラシーはどの程度ですか?」
「100点満点だ!」と言い切れる方はどのくらい居るかちょっと疑問を感じたので、まずはAI先生に「GMPリテラシーにはどのようなものがあるか?」と尋ねてみました。すると、『GMPリテラシーとは、単にGMPのルールを知っているだけでなく、医薬品品質を守るために必要な知識・判断力・行動様式を指します。実務では、次のような要素で構成されることが多いです。』と答えてきた。
さすがである。優等生としか言いようがない、素晴らしい回答である。ただ、問題はそのGMPリテラシーが製造業者や製造販売業者等の職員の実態として十分と言えるくらいに正確で、かつ充実しているかどうかということである*2。
第2章:そもそも識字力と読解記述力の違いは?
冒頭で述べたように、リテラシー(literacy)は、英和辞書では「識字力」と訳されている。じゃー、「読解記述力」と何が違うのか? GMPリテラシーも踏まえて、この点をAI先生に尋ねてみた。すると、『識字力と読解記述力は関連していますが、意味する範囲が異なります。』と答えてきた。整理すると、以下のような違いのようである。
文字を読み書きできる能力のことです。
GMPの現場では、SOPや製造指図記録を正しく読んで記入できるレベルが識字力に該当します。
文章の意味を深く理解し、自分の考えや事実を適切に文章で表現する能力です。
読解力
• 背景や論理関係を把握する
• 複数の情報を関連付けて考える
• 根拠を示して説明する
• 読み手に伝わる文章を書く
• CAPAの妥当性を説明する
• 査察官の質問意図を理解して回答する
上記の両者を表で示すと以下の違いとなる。
GMP教育の観点での違い

AI先生、筆者の意に答えるかのように、以下のコメントまで付けてくれた。
査察官は、
• 「なぜこの逸脱が発生したのか」
• 「なぜこのCAPAが有効と判断したのか」
うーん、言い返す言葉が見つからない。数ヵ月前と比べても格段に進化している。でも、このままで終わらせてしまったのでは、読者(+CM Plus社)に失礼なだけでなく、筆者の面目が立たない。ということで、AI先生に突っ込みを入れながら「GMPリテラシー関連」のヤリトリを次章以降に紹介する。
第3章:具体的にはどういったこと?
そこでAI先生に突っ込みを入れてみた。「GMPリテラシーとして具体的にはどういったことがありますか?」と質問。
すると、以下のようなといった形に分類して答えてきた。
② データインテグリティ意識
③ 品質リスクマネジメント
④ 異常検知力(違和感感知)
⑤ 正常性バイアスへの自覚
⑥ 記録文化(Documentation Culture)
⑦ 逸脱・変更管理の理解
⑧ 品質文化(Quality Culture)
⑨ まとめ(GMPリテラシーの構造)
①の規制・基準の理解に対しては、『医薬品製造に関わる法規やガイドラインを理解する力です。GMP省令や各種ガイドライン等を「なぜそのルールがあるのか」を理解することです。』
②のデータインテグリティ意識に対しては、『データの信頼性を守るためのリテラシーです。ALCOA原則に従い、後書きや改ざんをしないことです。』
⑨のまとめ(GMPリテラシーの構造)としては、『GMPリテラシーは大きく 3層(知識・判断・行動)で整理できます。』
といった具合の当たり前すぎる回答であった。
これじゃ役に立たないと思い、質問自体を修正することにした。ただ、上記の8項目は後編も含む以降のAI先生とのヤリトリすべての注意すべきポイントとも言えるので頭の片隅に置いていただければ有り難い。
第4章:最近の PMDA 査察で求められている「GMPリテラシー不足の典型例」としてはどんなものがあるか?
ということで、質問してみた。すると『最近の PMDA 査察では、単なる手順不備ではなく「GMPリテラシー不足」として見られる指摘が増えています。特徴は、ルールを知らないというより「品質思考が弱い」ことです。実際の査察指摘や「オレンジレター」などから整理すると、典型例は次のようなものです。これは管理職教育やGMP研修でかなり使われる内容です。』と、ちょっと興味ある回答をしてきた。
以下がその実際の回答である(細部については後述の内容とほぼ同じなので省略している)。
1. データインテグリティを理解していない
現在、最も多い指摘領域です。
監査証跡レビュー不足が頻繁に指摘されています。
2. OOS・逸脱を「調査しない文化」
査察官が強く問題視する典型例です。
これは査察官から見ると「品質リスク思考がない」と判断されます。
3. SOPを「読んでいない」
意外ですが頻出です。
「SOP=形式文書」になっている状態です。
4. 変更管理の判断ができない
最近のPMDA査察で増えているポイントです。
査察官は「承認事項との関係を理解していない」と評価します。
5. 承認書と実製造の不一致を理解していない
近年かなり厳しく見られています。
承認事項管理リテラシー不足と見られます。
6. 「品質リスク評価」をしていない
ICH Q9の考え方が現場に浸透していない例です。
最近の査察では、品質システム全体がリスク管理できているかを見ています。
7. 組織内コミュニケーション不足
PMDAの指摘事例でも多いポイントです。
Quality Cultureの問題と評価されます。
査察官がよく言うポイントは次です。
②品質リスク思考がない
③承認事項の理解不足
④SOPを形だけ運用
⑤問題を深掘りしない
ほぼ予想通りの優等生回答であった。が、もうちょっと突っ込んでみたくなったというのが本音である。しかし本質問の末尾に『もしよければですが、GMP教育や管理職研修でよく使われる「PMDA査察官が一瞬でGMPレベルを見抜く質問」という非常に面白い査察ポイントがあります。(現場ではかなり有名な話です)』と提案してきた。ちょっと面白いと思い、さっそく追加質問してみた。それを次章に紹介する。
第5章:PMDA査察官が一瞬でGMPレベルを見抜く質問
AI先生回答の冒頭には、『PMDA の査察官は、長時間の文書確認だけでなく、現場での短い質問で組織のGMPレベルを判断することが多いと言われています。これらは「GMPリテラシー」を見る質問とも言われ、作業者・管理職の理解度や品質文化がすぐに分かります。代表的な質問例を紹介します。』とあった。
このコメントについては、筆者もまったくの同意である。少なくとも、筆者の監査でも同様のチェックをしてきた。ということで内容を紹介する。
現場作業者によく聞かれる質問です。
査察官が見ていること
• 単に手順を覚えているだけか
• 「温度管理が品質に影響します」
GMP文化を見る質問です。
期待される回答
2. 上司報告
3. 逸脱報告
• 「大丈夫そうなら続けます」
データインテグリティ確認の質問です。
期待される回答
• 「作業と同時に記録しました」
疑われる回答
• 「あとでまとめて書きました」
これは、同時記録(Contemporaneous)違反の可能性があります。
設備管理・逸脱管理の理解を見る質問です。
査察官が見ているポイント
• ラベル管理
• QA報告
これはかなり重要な質問です。
査察官が見ていること
• 異常検知力
• 品質意識
良い回答例
• 「以前トレンドが変わったのでQAに相談しました」
悪い回答例
• 「特にありません」
現場では、「異常を感じないこと自体が問題」と評価されることがあります。
工程理解を見る質問です。
チェックポイント
• 工程理解
• リスク理解
これはGMPリテラシーの核心質問です。
答えられる人 → 品質理解あり
答えられない人 → ルール遵守型
査察官は、「Whyを理解しているか」を見ています。
PMDA 査察官が最終的に確認しているのは次です。
② 問題を隠さない文化があるか
③ 記録が信頼できるか
④ QAが機能しているか
⇒言わずもがな、ですよね。
査察経験者がよく言う言葉です。
「査察官は書類より先に人を見る」
作業者の回答で、工場のGMPレベルがほぼ分かると言われています。
全体としては、なかなか良い質問だと感心する。基本的には、民間企業の監査でも同じである。ただ企業による監査の場合、その監査員自身のレベルが大きく影響するということであろうか。列記すると簡単そうであるが、質問のタイミングと状況、それに対する応対者とのヤリトリでどこまで実態を引き出せるかにかかっているように思う。
理由は、地方薬務課を含む行政査察の場合は、受け手側が行政対応としてすべてを受け入れて答えてくれるが、企業監査の場合(例えば、委受託のような場合)においては、質問の仕方次第で今後のビジネス関係に影響を及ぼす可能性を否定できない*4。相手側との力関係や監査員の社内立場によっては、特に監査初心者やバックグラウンドの知識・経験が乏しい者だと切り出し方が難しいかもしれない。
第6章:PMDA査察でよく出る「危険な回答」トップ10
ここまでの整理を兼ねて「PMDA査察での危険な回答を教えてください」と質問してみた。AI先生、へたな現実の監査よりも面白い。以下がその回答であるが、まずは総括的コメントである。
『PMDAのGMP/QMS査察で「危険な回答」とされやすいのは、知識不足そのものよりも、品質システムが機能していないことを示唆する回答です。PMDAは近年、個別の手順よりも「なぜそう運用しているのか」「品質リスクをどう管理しているのか」を重視する傾向があります。』
個人的には拍手喝采である。こんな総括、筆者でもなかなか言えない。AI先生、さすがでございます。そのトップ10(ワースト10か?)を以下に紹介する。率直に言って、本章に出て来る受け手側の質問回答、「どこの製造所?」って聞きたいくらい“おバカ”である。ちなみに、AI先生の言う「安全な言い方」はお世辞にも安全とは思いませんので、ご注意ください。
• 担当業務について説明できない
• 教育訓練の有効性を疑われる
安全な言い方
• 「確認記録を参照しながら説明します」
• GMPの根拠にならない
• リスク評価や変更管理がない印象を与える
安全な言い方
• 「手順書〇〇に基づき運用しています」
3.「手順書には書いていませんが現場ではこうしています」
• 手順と実態の乖離
• 査察官が最も警戒するパターンの一つ
⇒これは完全アウトでしょ。
4.「記録は後で書きます」
• データインテグリティ上の重大リスク
• 同時記録原則違反を疑われる
PMDAは記録の信頼性を重視しています。
⇒これまた完全アウトでしょ。
5.「逸脱ではありません(理由は説明できない)」
• 逸脱判定基準が曖昧
• 品質リスク評価不足を示唆
⇒救いようがない。
6.「影響評価はしていません」
• OOS、逸脱、変更管理で危険
• 患者影響の観点が欠如している印象
⇒設定したお宅のCMCって何なの?
7.「その記録は見つかりません」
• 文書管理不備
• トレーサビリティ不備
文書管理は指摘頻度の高い領域です。
⇒レッドカードで退場!
• 指摘がなかったことは適合の根拠にならない
• 自社の品質保証責任を放棄したように聞こえる
• 承認書との齟齬は重大事項
• 試験法や工程変更は特に注意
近年、PMDAは承認書と実運用の整合性を厳しく確認する傾向があります。
10.「そのデータは削除しました」
• 査察官が最も敏感になる回答の一つ
• データインテグリティ問題へ直結
監査証跡や電子記録の管理は重点確認項目です。
⇒在り得ないでしょ。
11. 査察対応の基本原則
PMDA査察では次の3点を意識すると大きな失点を避けられます。
1. 事実だけを答える
2. 分からないことは推測しない
3. 根拠文書・記録を示して説明する
査察官が最も警戒するのは「知らないこと」ではなく、推測で答えること、実態と文書が一致しないこと、記録の信頼性が担保されていないことです。
なお、AI先生、本質問の回答の最後に『もし医薬品GMP向けであれば、「PMDA査察で実際によく聞かれる質問トップ30」もまとめられます。』と言ってきた。ただ筆者、「もうアホらしい」と思い、本件についてはここで止めました。もし興味があれば、チャッピーに尋ねてみてください。
前編のおわりに
AI先生、凄いなと思うのは、過去のこちらからの質問も踏まえて、当方の“お好み”を忖度したかのように「こんなのもありますよ」と言ってくることである。実のところ続きがある。次に言ってきたのは、『「管理職がやりがちなGMPリテラシー不足」なんてのはいかがでしょうか?』である。心の奥底まで読まれているようで、ちょっとゾッとしてしまうくらいである。
ということで、査察(監査)する側ではなく受ける側、しかも査察(監査)の当事者ではなく、その組織の管理職における「やりがちなGMPリテラシー」といった“あるあるチャット”について後編で紹介したい。
では、また。See you next time on the WEB.
【徒然後記】
しってるだけじゃだめですか?
「かわいいだけじゃだめですか?」なんてタイトルの歌があったと思うが、皮肉込みで言わせて貰えば、「(GMPを)しってるだけじゃだめですか?」というのが結論でしょうか。「知っていること」と「理解していること」とは違います。まして「実際にやれます(やっています)」ということとは別次元の話である。GMPの“P”は、Practicesの頭文字であり、「実行」「実践」の意味である。同時に「練習」「訓練」「演習」の意味もある。リテラシーの意味の解釈が変化してきたことも見据え、現在求められる「GMPリテラシー」を身に付けたいものである。
(天の声)知ってもいないお前が偉そうーに。
(筆者)これでもちっとは知ってるわ!
(天の声)ほっほっー、ちっとだけね、もろちょっと。
(筆者)くっそー!
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*1:直近、第17弾の 『勝手にGMP論』シリーズは、第89話「正常性バイアス・前編」および第90話「正常性バイアス・後編」です。
*2:たまたまと言えるが、GMPリテラシーにも至らない「GMP用語の誤解釈」についてのオレンジレターがPMDAから発行されている。
2026年6/17付オレンジレターNo.26「原薬に定められた有効期間/リテスト期間の管理について ―リテスト運用に係る誤解の防止―」
https://www.pmda.go.jp/files/000281160.pdf
*3:生成AI普及がそうであるように、「自分で考える」という“良い癖”をつけていかないと生きていけない時代になってしまったように思う。注意しましょう。
*4:本文内に記した「質問の仕方次第で今後のビジネス関係に影響を及ぼす可能性を否定できない」は、以下のアンケート報告の中の率直なご意見から懸念事項と言える。
2026年 2月4日付 日薬連発第061号「「GMP監査マニュアル」の利用実態に関する調査の結果報告について」内の「監査者に要望したい事項」
http://www.fpmaj.gr.jp/about/committees-list/committee/quality/news/report.html
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