私たちの身の回りの微生物【第1回】
私たちの身の回りの微生物 ~水回りに発生するピンクヌメリ~
1. 夏の水回りに出現するピンクヌメリ
夏に近づくにつれて気温が高くなってくると、キッチン、トイレ、洗面所などの水回りではピンク色のヌメリ(以降、ピンクヌメリと呼ぶ)があちらこちらで現れるようになる1)。例えば浴室では床面や排水溝周り、浴槽の内側外側、キッチンではシンクの内側や排水溝周り、トイレでは便器ボール面での発生が目立つ。さらには歯磨き用コップの底面、犬や猫などのペットの飲み水容器の中にも発生する。ピンクヌメリの特徴は何と言っても不気味なピンク色である点、湿度が高い環境というよりも水そのもの(水滴)が存在する場所を好んで発生する点、拭き取り掃除をしても同じ場所に何度も発生する点などが挙げられる。多くの家庭で悩みの種として広く認知されてはいるものの、「正体は何なのか」「なぜピンク色なのか」については意外と知られていない。
2. ピンクヌメリの正体は? そもそも有害なのか?
そもそも水回りにおいてヌメリが発生する原因は、微生物の増殖によるものと油脂分や食材・食品成分などの粘性物質によるものに分けることができる。前者は微生物によるヌメリのことだが学術的には“バイオフィルム(Biofilm)”と呼ばれ、色調的には薄い黄色、白、薄い茶などあまり目立たないもの多い。ピンクヌメリも代表的なバイオフィルムのひとつではあるものの、特徴的な色合いが目立つ存在である。ピンクヌメリは別名でピンクステイン(Pink-stein)やピンクスライム(Pink-slime)とも呼ばれ、ステインは“汚れ”、スライムは“微生物の集合体や塊”を意味しており、いずれも不気味なピンク色や不衛生感を想起させるに相応しいネーミングである。
このピンクヌメリの正体は、メチロバクテリウム属の細菌(学術名:Methylobacterium)、あるいはロドトルラ属の酵母(学術名:Rhodotorula)が増殖したものである。両者にもそれぞれ別名が存在し、メチロバクテリウムは“紅色細菌”、ロドトルラは“赤色酵母”と呼ばれている。
メチロバクテリウムとロドトルラは大気中や土壌、水、植物の葉面などに広く生息する一般的な環境菌ではあるが、我々にとって有害か否かは大きな関心事である。両菌種ともに日和見感染菌と言われており、高齢や病気、治療などで免疫力が低下した人に感染症を引き起こす可能性はあるものの、健常者にとってはほぼ無害であるためまずは安心である。ただし無害だからと言って、切り傷がある指でピンクヌメリを触ったり、その指を舐めたりすることは控えるべきである。土を触って雑菌が付着した手で目を擦れば瞼が腫れてくるし、傷口に触れれば化膿するのは至極当たり前のことと同じである。
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