奈良から発信する“品質”のコ・コ・ロ──くすりの歴史と現場のいま【第8回】

第8回 品質文化は上からも育つ―“責任役員”から始めた理由―
 

奈良県で薬務行政を担当している橋本です。
初回の記事では、「品質文化とは何か」、そしてそれがなぜ今、医薬品製造の現場で強く求められているかをお伝えしました。
品質文化は、手順書やルールを整えるだけでは育ちません。日々の判断や行動の積み重ねによって形づくられるものです。

これまでの連載では、現場の工夫や経営者の姿勢、組織の変化を紹介してきましたが、調査や対話を重ねる中で、私が改めて強く感じていることがあります。
それは、現場を変えようとする前に、まず経営層がどう向き合うかが問われているということです。

今回ご紹介するのは、奈良県が実施している「医薬品製造業者等品質保証体制強化事業」において、初回のワークショップを、あえて“責任役員”を主な対象として開催した目的と背景です。

1.本来は「現場向け」の企画だった
県ではこれまで、GMP適合性調査での対話や各種講習会を通じて、製造現場やQA・QC担当者の問題検知力・解決力の向上に取り組んできました。
今回のワークショップも当初は、実務担当者を対象とし、「気づき、考え、改善につなげる力」を育てる場として構想していました。

しかし企画を進める中で、あえて第1回目の対象者を責任役員とする判断をしました。そこには明確な理由があります。

2.現場だけでは、変えられないことがある
きっかけの一つは、実務担当者からの率直な声でした。

「自分たちだけでできる改善には限界がある」
「ワークショップは責任役員も経験してほしい」

現場には様々な課題があります。しかし、
・人員配置
・設備投資
・生産計画の見直し
といった根本的な改善には、経営判断が不可欠です。

現場に努力を求めるだけでは、品質文化は根づきません。むしろ疲弊と諦めを生んでしまいます。

現場を変える前に、まず上層が理解し、支える姿勢を示す必要がある。
これが出発点でした。

3.制度上も求められる「経営の関与」
この判断は理念だけではありません。制度的な背景もあります。

薬機法の目的は、医薬品等の品質・有効性・安全性の確保です。医薬品の流通について最終責任を負うのは製造販売業者であり、そのため品質の確保は現場任せではなく、企業経営の根幹に関わる事項とされています。またGMP省令においても、品質マネジメントシステムは現場任せではなく、経営層の関与のもとで維持・改善されるべきものとされています。

近年の通知等でも、品質問題の背景には
・経営資源の配分
・人員体制
・無理のある生産計画
といった経営判断に起因する構造的課題があることが繰り返し示されています。

つまり、品質は現場の努力だけでは守れない。経営層が環境を整えて初めて守れるものという整理が、制度面からも明確になってきています。

4.もう一つの狙い ― 従業員が参加しやすい環境づくり
第1回を責任役員対象とした理由は、もう一つあります。
それは、今後開催されるワークショップに、従業員が参加しやすい環境を整えることです。

 

 

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