最新コスメ科学 解体新書【第25 回】

小腸壁と口腔内の濡れ① 粘膜のモデルを作ろう!

大学に移籍した2007年、「これまでに見たことも聞いたこともない研究にチャレンジしたい!」なんて野望を持ち、何もない研究室であれこれ妄想を膨らませていました。そんな時、気になっていたのが「濡れ」でした。「濡れ」とは固体表面を液体が広がることと定義されており、私が所属する界面化学のコミュニティでは最も根本的な概念のひとつなのです。この現象は汚れを落とす洗浄剤を設計する時に必須の最も重要なコンセプトであるため、百年以上にわたって研究されてきましたが、1996年にわたしが研究を指導頂いていた辻井薫先生(花王、北海道大学)が水をほぼ完全にはじく超撥水材料を開発して以来、改めて世界中の材料科学者の注目を集めるようになっていたのです。

辻井先生の超撥水材料は、ハスの葉っぱが水をコロコロとはじく現象にインスパイアされて開発されたもので、大きな凸凹の中に小さな凸凹が存在する階層性のフラクタル構造を撥水性のワックスの表面に刻んだものなのでした [1]。階層性の凸凹構造は固体表面の特性を強調する作用があって、撥水性の表面はより水をはじくようにしてくれるため、その頃、世界中でより水をはじく材料の開発が進められていたのです。辻井先生は「超撥水材料でタンカーの表面を覆ってしまえば、燃費を究極的に下げることができる!」という壮大な提案をされていたものでした。

そんな中で、わたしはこんなことを確信しました。「みんなが完全に水をはじく材料なら、うちは一瞬で濡れる材料だ!」 ・・・完全に逆張りの直感から生まれたアイデアでしたが、よくよく考えてみたら、われわれの身体にも舌や腸のような常に濡れている親水的な粘膜があって、そこは味覚に関する物質や栄養素が我々の体内に入り込む界面として働いているのでした。そんなわれわれの生命を支え、鮮やかな食の世界を演出する生体表面のモデルを構築することは、何かの役に立つかもしれない、と考えたのです。

 

 

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