大型CO₂インキュベーターにおける微生物汚染リスクと無菌性対策

記事投稿:ニッタ株式会社 【PR記事】 (2025.11.20 更新)

大型CO₂インキュベーターにおける微生物汚染リスクと無菌性対策

 

はじめに:CO₂インキュベーターの無菌性維持の重要性
微生物培養装置は、医薬品製造やバイオプロセスにおいて無菌環境の維持が極めて重要な設備である。特にコンタミネーションのリスクを最小限に抑えるためには、装置内部の確実な除染が不可欠である。近年、蒸気化過酢酸(Vaporized Peracetic Acid, VPA)を用いた除染技術が、従来の除染手法に代わる有力な選択肢として注目されている。

蒸気化過酢酸除染は、微細な構造や複雑な配管を持つ培養装置内部に到達し、高い除染効果を発揮することが可能である。また、残留性が低く、環境負荷も少ないことから、GMP環境下での運用にも適している。
本稿では、蒸気化過酢酸による除染の方法と、培養装置への適用について概説する。

 

1. 大型CO₂インキュベーターにおける微生物汚染リスクと現場課題
大型CO₂インキュベーター(容積700L以上)は、再生医療等製品の大量培養に対応するために導入されており、製品の生産効率を上げている。
一方で、チャンバー容積が大きい場合には、機種によっては内部の温度・湿度分布や気流の影響により、ガラスドアや壁面、棚板などに結露が発生しやすく、微生物汚染のリスクが高まることがある。この結露は細菌やカビの繁殖源となり、培地や細胞への汚染要因となり得る。
また、Mycoplasma属細菌やウイルス、非生物粒子による汚染も報告されており、細胞品質への影響や大きな損失が懸念される。
出典:Thermo Fisher Scientific「Forma Steri-Cycle CRシリーズ CO₂インキュベーターの洗浄と滅菌」

 
 
2. GCTP省令およびPIC/S GMP Annex1の要求事項
GCTP省令(平成26年厚生労働省令第93号)では、製造環境の無菌性維持に関する要求事項として、清浄度管理区域および無菌操作等区域の設定、洗浄・消毒のバリデーション、環境モニタリングの実施が求められている。
PIC/S GMP Annex1(2023年改訂)では、Contamination Control Strategy(CCS)の策定が義務化され、殺芽胞剤の定期使用、消毒剤の作用機序の多様性、バリデーション、無菌性の保証が強調されている。
出典:PMDA「再生医療等製品の無菌製造法に関する指針」, GMP Platform「PIC/S GMP Annex1改定後の除染動向」
 
 
3. 現場で採用されている無菌性対策
現在の大型CO₂インキュベーターでは、以下のような無菌性対策が施されている: 

HEPAフィルター(H13以上)による浮遊する微生物及びウイルス除去
UV殺菌ランプによる加湿水の殺菌
過酸化水素を使用した除染機能
180℃乾熱滅菌機能(Shellabなど)
分割ドアによる環境変動の抑制
湿度ログ取得によるトレーサビリティ強化
出典:PHC株式会社「MCO-233AICUVHX-PJ」, Shellab製品情報, Thermo Fisher Scientific Smartnote

 

4. CO₂インキュベーターの代表的な滅菌機能とその課題
CO₂インキュベーターに搭載されている代表的な滅菌機能と、それぞれの課題・リスクの一例
過酸化水素(H₂O₂)除染
強力な酸化作用により、細菌・ウイルス・芽胞に対して高い除菌効果を発揮する。
【課題・リスク】残留物が細胞に悪影響を与える可能性があり、金属腐食や作業者の曝露リスクも懸念される。

乾熱滅菌(180℃)
日本薬局方にも準拠した信頼性の高い滅菌方法であり、芽胞菌を含む微生物を完全に死滅させる。
【課題・リスク】処理時間が長く、高温による部品の劣化やエネルギー消費が大きい。また火災や装置周辺への放熱による影響が懸念される。

UVランプ殺菌
紫外線によって微生物のDNAを破壊し、殺菌効果を発揮する。加湿水や空気の殺菌に利用される。
【課題・リスク】照射範囲に限界があり、陰になる部分には効果が及ばない。照度の低下や樹脂部品の劣化も課題。

 

5. 大型CO₂インキュベーターへの蒸気化過酢酸除染の有効性
<蒸気化過酢酸(VPA)とは?>
安全キャビネットやCO2インキュベーターに搭載されているHEPAフィルタは、微生物及びウイルスを捕集する役割があり、そのため、一般的にHEPAフィルタの除染を行う際は、透過性の良いホルムアルデヒドや二酸化塩素ガスなどのガス燻蒸がよく用いられる。
ガスはHEPAフィルタに捕集されず通過できるため、非常に有効な除染方法である。
一方、既存の超音波発生器等を用いたミスト式過酢酸除染では、HEPAフィルタを含めた除染を行う場合、HEPAフィルタにミストがトラップされて薬剤の除染効率が悪くなることや、HEPAフィルタが除染薬剤で濡れて劣化等の悪影響が考えられる。
そこで我々は、殺芽胞剤である過酢酸を蒸気化し、空間や設備を除染する蒸気化過酢酸除染「Vaporized Peracetic Acid, VPA」を開発し、さらにニッタはこの技術を用いて、HEPAフィルタまで除染可能な装置「VPASS」を開発した。

 

<VPASSの特長>

  • 安全性:低濃度の過酢酸を使用し、人体への影響が少ない。
  • 有効性:指標菌を6log以上減少させる高い除染効果。
  • 迅速性:準備から片付けまで約半日で完了。
  • 腐食リスク低減:湿度管理により金属腐食を抑制。
  • 屋外排気不要:除染薬剤はケミカルフィルタで吸着・分解するため、排気設備が不要。
  • 除染スタートからガス回収まで全自動
     

【写真】

VPASS:蒸気化過酢酸除染システム

左:VPASS   右:CO2インキュベーター

※インターフェックス2025年 東京
 ワケンビーテック株式会社様 ブース内

<VPASSによるCO2インキュベーター除染>
VPASSによる大型CO2インキュベーターの除染検証済み。
 ●除染対象:ワケンビーテック株式会社製 
生産用大型CO2インキュベーター NeXCell P870
※NeXCell P870の庫内温度分布:±0.5℃(@37℃)
  NeXCell P870 生産用大型CO₂インキュベーター | ワケンビーテック Webサイト
 ●指標菌を6log以上減少レベル
 ●除染時間 3時間程度(環境条件等による)

 
 
<まとめ>
ニッタが開発した蒸気過酢酸除染システム「VPASS(ヴイバス)」は、ホルムアルデヒド燻蒸の代替法としてCO2インキュベーター及び安全キャビネット等の庫内の除染作業に使用できるシステムで多くのメリットがある。
また、2023年8月に改訂されたPIC/S GMP Annex1では、殺芽胞剤の定期使用や無菌性の保証が求められている。VPASSはこれらの要件にも対応しており、グローバル基準に適合した除染装置であり、医薬品製造現場で作業者の安全性と製品への影響を最小限に抑えつつ、確実な除染効果を得られる。
過酢酸は安全性・効果・環境負荷のバランスに優れた薬剤として、今後の主流となる可能性を秘めている。
また、我々ニッタはエアフィルタメーカであり、蒸気化過酢酸耐性HEPAフィルタVPAシリーズの提供も可能であり、装置の堅牢性と高度な除染を維持する提案も可能です。
 ※蒸気化過酢酸耐性HEPAフィルタVPAシリーズは、過酢酸耐性の部材を使用し、VPA暴露検証実験を行ったエアフィルタです。
 
  • JIS K3800 2021 「附属書B 除染及び除染方法の評価 B.2 除染方法の評価」に準拠可能   
  • PIC/S GMP準拠の殺芽胞剤使用
  • HEPA/ULPAフィルタを含めた安全キャビネット内部のバイオ除染可能
  • 迅速性   簡易養生で除染可能(準備~片付けを約半日で実施可能)
  • 安全性 低濃度VPAでの除染 同室で製造作業可能
  • 屋外排気不要(薬剤の吸着・除去)※ニッタオリジナルフィルタ
  • 腐食リスクの低減(低薬剤濃度、湿度調整)
     

 
【事業内容紹介】
ニッタ株式会社クリーンエンジニアリング事業部では、インダストリアルクリーンルーム(ICR)やバイオクリーンルーム(BCR)の環境を生み出す空調用フィルタの製造、浮遊微粒子・浮遊微生物等の環境モニタリングシステムの構築、過酢酸を用いたバイオ除染の要素を組み合わせることで、無菌環境構築・維持管理におけるトータルソリューションの提供を行っています。
ぜひ、本記事をきっかけに、現場の運用にお役立ていただければ幸いです。
 
 
医療製薬向けクリーンソリューション

<本件に関するご連絡先>
ニッタ株式会社
クリーンエンジニアリング事業部 
ライフサイエンス営業課


 

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