奈良から発信する“品質”のコ・コ・ロ──くすりの歴史と現場のいま【第3回】
第3回 ─ “気づけなさ”が潜む現場のリアル ─
奈良県で薬務行政を担当している橋本です。
今回は、私自身が「自己点検」で感じていることを紹介します。
1. 100点満点の自己点検は、危険信号?
令和6年度、県内の医薬品製造業者は業許可一斉更新を迎えました。
併せて、GMP定期適合性調査を実施。その事前準備として、事業者にGMPに係る自己点検票の提出をお願いしました。提出された自己点検結果は、回答内容を点数にすれば、ほとんどが“ほぼ100点”。
「あまりに完璧すぎる」
経験上、“完璧”と見えるときほど、現場では思わぬ盲点が潜んでいることがあります。人は、当たり前すぎて見過ごしてしまうことや、慣れから生まれる省略を、意識しないまま日常に組み込んでしまうからです。
もちろん、全てがそうではありませんが、私たち調査員は、日頃から各社の現場をよく見ているからこそ、「全員がほぼ満点」という結果に少し違和感を覚えるのです。
現場には必ず、小さな改善点や課題の芽が存在します。
自己点検は、減点されないための“テスト”ではありません。むしろ、「課題を自ら発見し、改善の行動につなげる」ことこそが大切です。そういう意味では、100点満点の点検票よりも、「ここはまだ弱い」「改善したい」と正直に書かれた点検票の方が、私たちにとってはずっと安心できるのです。
2. 現場で見たリアル
現場を見て回るうちに、その心配が、具体的な姿を現し始めました。
- 作業記録の記載漏れ
- 手順書の未作成
- 教育訓練記録の作成漏れ
- 手順と異なる変更管理の実施 など
いずれも、重大な逸脱ではなく、日常の業務の中で埋もれてしまいやすい“小さな抜け”です。もし日常の自己点検で気づいていれば、すぐに是正できるはずの内容です。
現場の担当者は皆、真摯に業務に向き合っており、手を抜いているわけではありません。むしろ、日々の忙しさや慣れが積み重なり、こうした“小さな抜け”に気づきにくくなっていることが伝わってきました。
3. 「気づいていなかった」の重み
現場の方々にこうした点をお伝えすると、多くの場合は驚いた表情で「気づいていませんでした」と答えられます。
つまり、「できていないこと」自体を認識していなかったということです。
この瞬間、私は改めて実感しました。
最大のリスクは、“できていないこと”そのものではなく、“できていないことに気づけない”状態にあるということを。
GMPは単なる規則や手順の集まりではなく、日々の業務を通して「異常や逸脱に気づき、是正できる仕組み」を組み込んだマネジメントシステムです。
この「気づく力」が働いていれば、小さな不備は早い段階で修正され、重大な問題に発展する前に食い止めることができます。
しかし、気づく力が弱いと、不備が積み重なり、やがては深刻な不適合や法令違反に結びつく危険があります。
「見えていないことは、改善の対象にならない。」
今回の査察で強く印象に残ったのは、そのシンプルで厳しい事実でした。
4. 自己点検の本当の意味
まず、お伝えしたいことがあります。
私たち調査員は、自己点検の結果を“指摘するため”に見ているわけではありません。
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