ある監査員の憂鬱【第2回】

海外監査のトラウマtraumaプチハピpetit happy:徒然なるままに


本稿はフィクションを含みます。実在の地名、人物や団体などとは関係ありません。でも、監査経験の浅い皆様の不安を和らげたい、お役に立ちたい気持ちと、お伝えしたい情報に偽りはありません。

皆さん、上司から海外対応を命じられたら、どう感じますか? 私は、40歳を過ぎて「明日から海外担当だ」と言われ、途方に暮れました。当時の私は、英検2級に3回目で合格、TOEICは500点ギリギリでしたから。そこで、自宅近くの小さな英会話教室に通うことにしましたが、大手の教室を選ばなかったのは正解だったように思います。ときには酒を交わしながらの会話で「通じること」の楽しさも感じ、2年後にはTOEICの瞬間最大風速 820点を叩き出しました。とは言え、その後に経験した海外監査ではヒヤヒヤの連続でした。そんなエピソードを書いていこうと思います。

《アメリカにて》
海外での品質監査を担当することになって数年後のことです。英語力は実用ギリギリのレベルでしたが、技術的背景が有機合成化学だった私にとっては、ICH Q7ガイドラインが共通言語となり、工場内では下手な英語でも何とかなると感じ始めていた頃です。現地に着いたのは監査前日の昼前で、同僚と二人でホテル近くのファストフード店に入りました。注文はメニューの品名を言うだけなので簡単でしたが、会計に進んだところで立ち往生。店員さんは「あなたは何を注文したの?」と尋ねていた(と後でわかった)のですが、注文内容は会計スタッフにも伝わっていると思い込んでいた私は、何を聞かれているのか全く理解できませんでした。“Perdon?”と尋ねても、彼女は苛つき気味に同じ言葉を繰り返すばかりで、ようやく「これを注文した」と答えられて会計を済ませたとき・・・

私の拙い英語力にすら達していなかった同僚は、とっくに席についてハンバーガーを頬張っていました。外国語によるコミュニケーション能力は語学力だけではないと痛感したトラウマで、その後ずっと、海外出張での最大の不安は「街で食事すること」です。

《イギリスにて》
次も英語が辛かったエピソードです。イギリス英語とアメリカ英語の違いに戸惑うという話をよく聞きますが、私は耳が悪いのか、全く違いを感じられません。そんな私がイギリスの製造所への監査を担当したとき、契約の壁が立ちはだかりました。私の勤務先はオーストラリアの企業からグローバル製品の供給を受ける立場で、「製造所への監査者は2名まで」と契約で規定されていたので、オーストラリアの監査者と私の2名で担当することになりました。そう、リードオーディターの私以外は、監査パートナーも監査を受ける製造所側も、全員がネイティブの英語話者だったのです。

不安マックスの私は、事前にパートナーと打ち合わせたかったのですが、当時はウェブ会議を手軽に使えませんでした。オーストラリアとイギリスは途方もなく遠く、長距離の移動で疲れていたであろう彼には申し訳なかったのですが、監査前日の夜9時にホテルで面会して「私の英語力は弱いので、あなたのサポートを頼りにしている」と正直に頼み込みました。

 幸い監査は順調に進みましたが、監査パートナーと製造所の説明者が交わす会話を聞き取れなかったことも多く、正直のところ凹んでいました。監査後の夕食のとき、私はパートナーに「私の英語はどうでしたか」と尋ねたところ、彼は少し間を開けて “Well, your English was understandable.” と答えました。凹んでいる私への慰めもあったのでしょうが、英語に自信のない私にとって、「上手でなくとも伝われば良い」という励みになった言葉です。

《ベルギーにて》
私の英語力は実務上ギリギリのレベルで、とても流暢とは言えません。そんな私が少しホッとするのは、北欧の小国への出張です。現地の人々は、欧州圏内での生活のために母国語でない英語も必要だからでしょうか、英語が下手な外国人とのコミュニケーションに寛容と感じられるのです。そんな油断からか、ベルギーで失言をやらかしました。

 

 

執筆者について

経歴 ※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

連載記事

コメント

コメント

投稿者名必須

投稿者名を入力してください

コメント必須

コメントを入力してください

セミナー

eラーニング

書籍

CM Plusサービス一覧

※CM Plusホームページにリンクされます

関連サイト

※関連サイトにリンクされます