医療機器の生物学的安全性 よもやま話【第70回】
<最終回> 千秋万歳
この連載をはじめてから、6年弱の年月が経過し、70回の今回をむかえることができました。当初、編集者の方とは学生さんでも理解できるようなお話にして、広く生物学的安全性のことを知っていただこうと話し合い、タイトルも堅苦しくない「よもやま話」ということにしました。
ただ、書き進めていく中で、内容が堅苦しくなってしまい、退屈な文章になってしまったことは一番の反省です。
さまざまな生物学的安全性の話題を書き連ねましたので、お後もよろしいようで今回でお開きとさせていただこうと思っているところです。これまで長きにわたり、皆さまにお読みいただけたこと、誠にありがたく、古風な言い方ですが恐悦至極に存じます。
今回は身勝手ながら、昔からこの世界に携わってきた古い人間の思い出を少し書かせていただきます。
私が就職したのは1986年です。修士を終え、国家試験も無事通過して獣医免許がもらえました。勤め人になるのは性格的につらく、動物病院を開業するか、研究者を目指してさらに進学したいとも思ったのですが、学生結婚をした身で、家族と世間の荒波をどうやって乗り越えるかを考えると、就職しか選択肢はありませんでした。その頃はバブル期と呼ばれる好景気の時期の手前くらいだったかと思いますが、まだ就職状況は悪く、浮かれた気持ちになるような景気のよい話もない有様で、ようやく薄給の団体職員の端くれとして糊口をしのぐことになりました...。
その頃の医療機器の生物学的安全性は、現在のような評価をするという考え方ではなく、医療機器の種類毎の規格基準の一部として規格適否で判断していました。例えば、ディスポーザブル輸液セット基準であるとか、眼内レンズ承認基準というようなものです(今でもいくつか存在していますね)。その基準の中で、主に生理食塩液を溶媒として加熱抽出した液について、急性全身毒性試験や発熱性物質試験を行い、規格適否を判断するような形での生物学的安全性確認です。
このように医療機器の種類に応じて行う縦割り型の規制であることと、生理食塩液や植物油を抽出溶媒として行うような、ハザード検出というよりはリスク評価のための試験であることが特徴です。細胞毒性試験については、眼内レンズ承認基準に直接接触法のひとつである寒天重層法と、増殖阻害試験という細胞のタンパク質量を指標とする試験がありました。その他としては、皮内反応試験や溶血性試験がありましたが、感作性試験や遺伝毒性試験まで要求されることはほとんどありません。また、埋植試験もありましたが、ウサギの筋肉に数日埋植して肉眼で観察するのみのものでした。
このように、当時の医療機器の生物学的安全性評価の考えとしては、医療機器は基本的に安全だと思われる材料を用いて製造されているもので、かつ、医薬品のように薬理作用を有するものでもないことから、念のため問題がないことを確認するような立ち位置ではなかったかと思います。
ただ、承認申請上は、医薬品と同様に安全性に関する添付資料は、電気的安全性などとともに生物学的安全性についても挙げられていたと記憶しております。当時、人工関節などの大型のインプラント型医療機器が国内でも数社で開発されてきましたので、さすがに上記のような試験だけでは十分ではないだろうということで、遺伝毒性試験や細胞毒性試験、そして、臨床使用部位への埋植試験も追加して評価する場合がありました。
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